最近では主流となった「シートフローリング」へのフロアコーティング施工について説明します。オレフィンというプラスティックのシートへ木目模様などをプリントしたものの総称がシートフローリングです。従来のフローリングとの構造上の違い、コーティングの施工可否、相性のよいフロアコーティング種類などすべて明快に解説します。
シートフローリングの現状
ここ数年、新築住居のフローリングはマンションも一戸建てもシートフローリングが主流になっています。シートフローリングは従来のフローリングとは違い表面の素材がプラスティック(オレフィンシート)になっています。
はじめて知った人はびっくりするかもしれませんが、机や棚などで昔から使用される木目がプリントされたシートが本物の木を薄く桂剥きのようにスライスしたもの(化粧板といいます)に取って代わったのです。
ワックスレス・フローリングとも言います
シートフローリングの呼称はメーカーにより異なります。積極的に表面が木材ではなく実はオレフィン素材だとということをあまり言いたくないようです。よくある表現としてはワックスフリーフローリング、ワックスレスフローリング、ノンワックス仕様などがあります。
これは素材を指している言葉ではなくフローリング表面がオレフィン素材ですからワックスを塗布する必要がないですよ、よいうことです。これには二つの意味合いがあって一つは表面硬度が高いので従来のものより擦り傷などによる劣化が少ないからやらなくていい、二つめはワックスとオレフィン素材との密着性が悪く、一般の人ではとてもムラなく均一に塗布することが難しいため、やめておいたほうがいいということです。
ワックスが上手く塗れないならフロアコーティングも同様だろうと思う方もいるでしょう。まして擦り傷がつきにくいなら必然性もないと考える方がいても不思議ではありません。しかし、消耗劣化しないフローリング素材はあり得ませんし、ワックスとは違いフロアコーティングは使用塗料に多様性があります。なかにはワックス同様に相性のよくない性質の塗料もありますが、一方で相性のよいものもあります。
フロアコーティングを推奨する、しない?
シートフローリングへのフロアコーティングは、表面の性質が木の化粧板とは異なりますから以前はフロアコーティングを断る業者もいました。シートフローリングが世の中に出回り始めた2005年頃は上手く施工できずトラブルをおこす業者が少なからず存在したのは事実です。もっとも今では新築物件のほとんどがシートフローリングですから、そのような段階は乗り越えたといっていいでしょう。
住宅の売り主や施工会社によっては施工することのリスクなどからフロアコーティングを推奨しないところも残念ながらあります。一方ではシートフローリングは耐久性、とくに水分が床材の隙間に入り込むことによる反りやシートの剥がれなどの懸念から積極的にフロアコーティングによる保護をすすめる施工会社や設計会社などもはあります。
フロアコーティングをするかしないかの判断の前に、まずは根も葉もないような話や、立場によりバイアスのかかった情報を鵜呑みにすることなく正しい知識を得てください。
シートフローリングの構造と特徴
シートフローリングといっても基本的な構造は従来のフローリング(突板フローリング)と同じです。複層フローリングともいうのですが、集成材や加工木材といった比較的に丈夫で手に入りやすい木材をサンドイッチのように重ね合わせ、その上に木目がプリントされたオレフィンシートが貼ってあります。さらにその上にクリア塗装といって表面保護のため透明な塗装がなされています。
フローリングというとかまぼこ板のような一枚の板を想像する方も多いかもしれませんが、そのような単一の素材でできたフローリングは無垢フローリングといって現在では貴重な床材です。通常のマンションや建売住宅では標準の仕様として採用されることは稀です。
フローリング種類について
余談になりますが無垢タイプフローリングといって表面の板に2ミリ~5ミリの厚みのある板を使用したフローリングもあります。
木を桂剥きのようにして透き通るほど薄くスライスした化粧板を採用するものは突板フローリング。対して木を挽いた(カットした)ものを化粧板に採用するものを挽板フローリングといいます。無垢タイプフローリングはこの挽板フローリングのことです。無垢フローリングに代わって最近では高級な床材として利用されています。
フローリングの種類を大別すると以下のようになります。
- 無垢フローリング/単一素材のフローリング
- 挽板フローリング/表面の板が2ミリ以上(複層フローリング)
- 突板フローリング/表面の板が0.2ミリ~0.6ミリ(複層フローリング)
- シートフローリング/表面の板がオレフィンシート(複層フローリング)
シートフローリングに最適なフロアコーティングは?
シートフローリングはその表面仕上げから、水性や水系のウレタンコーティングがきれいに密着する相性の良いフロアコーティングです。油性塗料を使用するUVコーティングやシリコンコーティングは場合によっては不具合を起こす可能性があります。シートフローリングの特徴のひとつはその表面い施されるクリア塗装にあります。どういうことなのか説明いたしますので続きをお読みください。
クリア保護膜の塗装工法が違う
フローリングは一部の無垢フローリング以外は表面に透明色の塗装が施されます。これをクリア塗装といいます。シートフローリングも同様にクリア塗装されますが、シートフローリングの特徴はそのクリア塗装にあります。
従来のフローリングでは大抵、紫外線硬化型塗装が施されます。紫外線に反応して固まる触媒の入った油性ウレタン塗料を塗るのです。
一方、シートフローリングは表面が石油由来の素材ですから油性ウレタンだと塗料に含まれる有機溶剤がシートを溶かすような作用をしてしまいます。
そのため、よくクリア塗装に使用される塗装はEBコーティング(電子線照射型塗装)となっています。紫外線ではなく電子線を照射して固まる塗料です。そして、ここが重要な部分ですが、塗料のタイプが油性というよりも水性に近い塗料になっているのです。
水のみではなく一部に有機溶剤を微量使用して主成分である樹脂を最新技術を用いて溶かし込んだ塗料です。これは比較的新しいジャンルの塗料ということで水性と区別するため水系ということにする場合もあります。ちなみにですが当社の「フロアプロテクトAP」もこのタイプですね。
相性のよいフロアコーティングは
フロアコーティングにはUVコーティングやシリコンコーティングなど油性塗料を使用したコーティングもあります。これらのフロアコーティングはクリア塗装の場合と同様にシートフローリングとは基本的に相性のよいコーティングとはいえません。
油性塗料は一般的に強い溶剤(主成分である樹脂が溶け込んでいる液体のこと)が含まれるのでシートフローリングの表面を侵してしまうのです。絶対に上手くいかないとまではいいませんが、塗料濃度や塗る量などを最適に調整しないと簡単に不具合を出してしまうと思います。
フロアコーティングのなかでも水系や水性のウレタンコーティングやアルコールを溶剤に用いたガラスコーティングなら、シートフローリングの表面を侵すということはありませんので無理なく施工可能です。
シートフローリングにおすすめのフロアコーティング
1.水系ウレタンコーティング
100%水ではなく微量の有機溶剤を含むウレタン塗料を利用したコーティングです。石油系の揮発性有機溶剤を用いた塗料にかわり環境配慮を重視したものです。ホルムアルデヒドのみならずあらゆる揮発性有機化合物(VOC)を制限しています。
UVコーティングや油性ウレタンなど油性ウレタン塗料を利用するフロアコーティングと遜色ないような強靱な塗膜を形成することでフローリングを保護します。
2.ガラスコーティング
アルコールという食品添加物にも用いられる安全性の高い溶剤をベースにつくられた塗料を利用したコーティングです。主剤はガラス製品の主成分と同様に珪酸をシリカ溶液にしたものです。高熱で溶かすことなく扱えるように改良されたもので常温ガラス塗料ともいいます。
とても硬い塗膜を形成することが特徴で、傷、摩耗、汚れが生じにくいフロアコーティングとなります。
水性塗料の現状
水系や水性というとなかに水をこぼすと溶けてしまうなどと思われる方もいるかもしれません。実際のところでいうと、やはり油性コーティングと比較すると、水には溶けないにしても若干ですがアルコールなどの溶剤に対して弱いかもしれません。
ただし安全性や環境への配慮でいうと油性とは比べ用のないくらい揮発性有機化合物の放散量はすくなく人体にも環境にも優しい塗料です。
また、最近では水系・水性の塗料は建物の外壁や自動車など強度の必要な対象にも使われるようになってきています。基本的には油性も水性も溶剤が揮発したり蒸発したりすると残るのは同じ樹脂成分ですから理論上は同じ性能を達成できるのです。
環境の分野では日本は後進国です、EU連合などでは化学物質の使用が日本よりもはるかに厳しく制限されているため塗料はますます水性(水系含む)に傾いてきています。
シートフローリング施工の技量問題
一時期シートフローリングへのコーティングを断る施工会社がありました。その理由は、ひとつは上述した表面仕上げとの相性の問題、もうひとつは基材に使用されるMDF(中質繊維板)の問題です。
この問題に関してはコーティングする職人の心がけや手際の良さ、技術でカバーできるものですが、一時期はフローリングに重大な不具合を起こすこともあったようです。そういうことなのか説明いたします。
MDFとは
シートフローリングの内部は複層になっています。その複層になっている部分の一部に使用される成形木材がMDFです。
MDFは簡単にいうと細かく砕いた木材チップを合成樹脂と一緒に固めたボードです。モノを落としたりしたときの衝撃による凹みがつきにくい素材とされています。
MDFは複層フローリングならシートフローリング以外にも使用されているのですが、私の知る範囲ではシートフローリングでより多くの不具合が発生しているようです。原因はコーティング施工の事前清掃で使用する水です。
フロアコーティングではコーティング材を塗布する前に必ず洗剤拭きや水拭きを行ないます。とくにワックスは塗られている場合は剥離施工といって強い洗剤を用いますので使用する水も多くなります。その際にMDF部分が水を吸い込むことでフローリングの側部が浮き上がったり、シワが寄るような状態になるのです。
施工を工夫することで問題は解決します
ただし冒頭にも記しましたように、これは防げることです。そもそもフローリングの清掃では多量の水を使用したり塗れたまま放置するのは厳禁です。フローリングを濡らしたあとは手際よくウェットバキュームという機器で回収したり、乾拭きしたりすることが大事です。ワックスの剥離にはフローリングの隙間に侵入しにくい粘度のある中性の剥離剤を使用することでリスクを減らせます。
シートフローリングをコーティングする必要性
当社に関していうと一時期はおおげさではなくお客様の半分が他社で施工を断られた方でした。
「どうして他社は出来ないのにベルカーサは施工可能なんですか?」とよく聞かれたものです。
そもそも水系ウレタンコーティングをメインにしていましたし、多量の水をぶちまけて清掃するようなことはしていませんでしたので最初は逆になぜ他社が施工を断るのかが理解できなかったです。現在は超高硬度な塗膜が特徴のガラスコーティング「フロアガラスSi」が新築の床には最も人気があります。シートフローリングとの相性も抜群で強度の高いフロアコーティングです。
その後取り寄せたシートフローリングのサンプルに油性のシリコンコーティングを塗ってみたりして、なるほど思ったものです。
まとめ
ときどき「シートフローリングですけどフロアコーティングしたほうがよいですか?」というお問い合わせをいただきます。その問に対する私の答えは、突き放すようですが、したいと思ったらしたほうがよいということです。
シートフローリングといっても特別なものではありません。愛車にワックスやカーコーティングをするように木材でなくても、その物を大事に長く使用したいならフロアコーティングはフローリング種類を問わず有効な手段だと思っています。
わからないことや、相談してみたいことなどありましたら遠慮なくお問い合わせください。